証券会社が作った、新しいブロックチェーンRobinhood Chain①くりぷと知っ得情報9月16日号

クリプトスタディ(クリスタ)の水野です。
今回からは、Robinhoodという証券会社が自社のサービス(株式トークンやDeFi機能)を動かすために作った「基盤・インフラ」Robinhood Chain(ロビンフッドチェーン)について、書いていこうと思います。
 

と、その前に、 Robinhoodと言えば‥‥。

ゲームストップ株騒動:2021年1月

2021年1月に、ニューヨーク証券取引所に上場する企業「ゲームストップ」(GameStop Corp.:ティッカー:GME)という企業をめぐって、大きな騒動が起こりました。

「ゲームストップ株騒動」

と言われています。

それは、米国のSNS掲示板に集まった個人投資家たちが、「ゲームストップ」株を空売りしていた大手ヘッジファンドに対抗する形で買い注文を出し、同社株を買い進めました。その結果、株価は異常な高騰を見せます。

空売りとは、株を借りて先に売り、あとで安く買い戻して返すことで差額を儲ける取引ですが、株価が下がるどころか逆に急騰してしまうと、空売りしていた側は損失がこれ以上膨らむ前に、高値でも買い戻して返さざるを得なくなります。

この「仕方なく買い戻す」動きが新たな買い注文となり、さらに株価を押し上げる‥‥、この現象を「ショートスクイーズ」といいます。

こうして「ゲームストップ」株は、最安値の約200倍まで急騰しました。

この時、多くの個人投資家が利用していた代表的な証券アプリが、「Robinhood」ですが、この時、Robinhoodは同銘柄の買い注文を一時停止し、それが「ヘッジファンドを守る措置では」と猛批判を浴び、当時のCEO、Vlad Tenev(ヴラド・テネフ)氏が米議会で証言する事態にまで発展しました。(参考)
今回の内容との因果関係はありませんが、その有名なRobinhoodが2026年、自前のブロックチェーンRobinhood Chain(ロビンフッドチェーン)を立ち上げました。

Robinhood Chain(ロビンフッドチェーン)基本情報

項目内容

内容

ブロックチェーン名称

Robinhood Chain

開発・運営企業

Robinhood Markets, Inc.
Offchain Labs

公開日

パブリックテストネット:2026年2月10日
メインネット正式ローンチ:2026年7月1日(ロンドンで発表)

2つの延長線が交わる場所〜証券事業と暗号資産事業〜

Robinhoodはもともと、株式・ETFを扱う証券事業と、ビットコイン(BTC)などを扱う暗号資産の取引事業を、別々のサービスとして並行して運営してきました。
株式は証券会社の口座の中で、暗号資産はウォレットやブロックチェーンの仕組みの中で、それぞれ違うレールの上を走っていたわけです。
Robinhood Chainは、この2つの事業が合流する場所だと捉えると理解しやすくなります。
株式・ETFという「証券」の世界を、暗号資産と同じ「ブロックチェーン」というレールに乗せる。
つまりRobinhood Chainは、まったく新しい事業というより、Robinhoodがこれまで積み上げてきた2つの事業の延長線上に生まれたものなのです。

「証券会社の新サービス」ではなく「金融インフラ」

もう一つ押さえておきたいのが、Robinhood ChainはRobinhoodアプリに追加された「新機能」ではない、という点です。
もし単なる新サービスであれば、Robinhoodの中だけで完結する仕組みになるはずですが、実際には、Robinhood Chainは誰でも開発に参加できる「パーミッションレス(許可不要)」なチェーンとして作られており、Robinhood以外の開発者もこの基盤の上にアプリや金融サービスを構築できます。
つまりRobinhood Chainは、Robinhoodというサービスの一部ではなく、その上に様々なサービスが乗っていく土台=「金融インフラ」として設計されているのです。

既存の証券市場が抱える4つの制約

では、なぜわざわざ新しいインフラが必要だったのでしょうか。
背景には、従来の証券市場が抱える構造的な制約があります。
🔶取引時間株式市場は平日の決まった時間しか開いておらず、夜間や週末は取引できない
🔶国境米国株を売買するには、多くの場合その国の証券口座や規制対応が必要で、海外の個人投資家には壁がある
🔶決済株の売買が成立してから実際に資産が受け渡されるまで、伝統的な仕組みでは時間がかかる
🔶保管
株式は証券会社などの仲介者が「預かる」形が基本で、投資家自身が直接保有・管理する形にはなっていない

Robinhood Chainが目指す市場

Robinhood Chainは、この4つの制約をブロックチェーンの仕組みで解消しようとしています。

24時間・プログラム可能

🔶取引時間
取引時間の制約がない24時間365日の市場
🔶国境
地理的な制約を受けにくいグローバルなアクセス
🔶決済
ほぼリアルタイムに近い決済
🔶保管
自分のウォレットで資産を直接保有できる仕組み
です。
さらに重要なのが「プログラム可能」という点です。
株式トークンがブロックチェーン上のスマートコントラクトで扱えるようになることで、貸し借り(レンディング)や自動売買など、様々な金融サービスとプログラム的に組み合わせられるようになります。
これは、紙の株券や証券口座の中だけで完結していた従来の株式には無かった性質になります。

なぜ「自社ブランド」のチェーン?

なぜ「自社ブランド」のチェーンである必要があったのか?
ここで、冒頭の問いに戻ります。
24時間・プログラム可能な市場を作るだけなら、既存のイーサリアム(ETH)やアービトラム(ARB)上にアプリを作ることでも実現できそうです。
それでもRobinhoodが自社ブランドのチェーンにこだわったのは、株式やETFという規制の厳しい金融商品を扱う以上、取引の順番を決める仕組みや手数料体系、コンプライアンス対応まで、自分たちでコントロールできる基盤が必要だったからです。
実際にRobinhood Chainは、Offchain Labsが提供する「Arbitrum Orbit」という技術を使って作られています。
これは、アービトラム(ARB:Arbitrum)という実績のあるレイヤー2(L2)技術をベースにしながら、企業が自分専用のチェーンとしてカスタマイズできる仕組みです。
イーサリアム(ETH)という大きな基盤の安全性を借りながら、株式トークンの取引に必要な独自ルールは自分たちで設計する——これが、Robinhoodが既存のチェーンを使うだけでなく、自社ブランドのチェーンを必要とした理由です。

Arbitrumの技術を使うメリット

実績のある技術基盤

アービトラム(ARB)はイーサリアム(ETH)系レイヤー2(L2)の中でも、老舗かつ最大級の実績を持つため、ゼロから独自のブロックチェーン技術を開発するより、技術的なリスクが低い。

イーサリアムの安全性を継承

取引の正当性は最終的にイーサリアム(ETH)で検証される仕組みのため、独自チェーンでありながら高いセキュリティを確保できる。

開発ツールがそのまま使える(EVM互換)

Solidity(ソリディティ)、Hardhat(ハードハット)、Foundry(ファウンドリー)など、イーサリアム(ETH)向けの開発ツールや知見をそのまま流用できるため、開発者を集めやすく開発スピードも速い。

Solidity(ソリディティ)

イーサリアム(ETH)上でスマートコントラクト(自動で実行されるプログラム)を書くための、専用のプログラミング言語

Hardhat(ハードハット)

スマートコントラクトの開発・テスト・デプロイ(公開)を効率よく行うための開発環境ツール

Foundry(ファウンドリー)

スマートコントラクトの開発・テスト・デプロイ(公開)を効率よく行うための開発環境ツール

イーサリアム(ETH)向けの開発ツール全般は、スマートコントラクトを書く、試す、世に出すまでの一連の作業を助けてくれる、いわば「開発者用の道具箱」のようなもので、それらを活用しているわけですね。

エコシステムとの相互運用性

アービトラム(ARB)上の他のプロジェクトやウォレット、ブリッジ(資産の橋渡し)と繋がりやすく、ゼロから孤立したチェーンを作るより流動性や利用者を呼び込みやすい。

カスタマイズの自由度

「Arbitrum Orbit」という仕組みを使うことで、これらのメリットを享受しながら、取引順序のルールや手数料体系は自社専用に設計できる。
一言でいえば、「信頼性・開発のしやすさ・エコシステムとの繋がり」を借りつつ、運営の主導権だけは自分で持てる、という組み合わせがアービトラム(ARB)を選んだ実利的な理由です。

タイムライン

Robinhood Chainは、段階を踏んで公開されました。
2026年2月10日にパブリックテストネットを公開し、開発者がアプリや仕組みを試せる期間を経て、同年7月1日にロンドンでメインネットを正式に公開しています。

おわりに

Robinhood Chainは、、Robinhoodのアプリで株を売るための一機能ではありません。
株式やETFという証券を、ブロックチェーンの上で扱えるようにするための「基盤」です。

次回は、Robinhood Chain技術的な仕組み‥‥イーサリアム(ETH)とアービトラム(ARB)との関係について、さらに掘り下げて解説します。
お読みいただきありがとうございました。