証券会社が作った、新しいブロックチェーンRobinhood Chain③くりぷと知っ得情報9月30日号

クリプトスタディ(クリスタ)の水野です。
証券会社、Robinhood Markets社が自社のサービス(株式トークンやDeFi機能)を動かすために作った「基盤・インフラ」Robinhood Chain(ロビンフッドチェーン)について、シリーズで書いています。
🔶Robinhoodは、なぜ自前のブロックチェーンをつくったのか?
くりぷと知っ得情報9月16日号🔶Robinhood Chainと、イーサリアム(ETH)、アービトラム(ARB)の役割分担
くりぷと知っ得情報9月23日号
前号では、Robinhood Chain(ロビンフッドチェーン)と、イーサリアム(ETH)、アービトラム(ARB)の役割分担について書きました。
今回は、Robinhood Chain上で発行されている、米国の有名企業の株価に連動する暗号資産「Stock Tokens(株式トークン)」について、書いていきます。
基本の仕組み:「株そのもの」ではなく「請求権」
結論から言うと、Stock Tokensは株そのものではありません。
Robinhood Markets社の説明によれば、これは「他の誰かが保管している株式に対する請求権」であり、株式本体ではないとされています。
ゲームストップ(GME)やエヌビディア(NVDA)、アップル(AAPL)、スペースエックス(SPCX)、さらにはオープンエーアイ(OpenAI)など、通常は個人投資家が簡単には買えない企業まで、そのトークンを通じて値動きに参加できるのが特徴です。
普通の株と違うのは、証券口座を開いて株を買うのではなく、ブロックチェーン上のウォレットで、トークンという形で売買するという点で、これにより、通常の証券取引所が閉まっている夜間や週末でも、24時間いつでも取引できるようになっています。
イメージとしては、「その企業の株価という"数字"に連動して動く、デジタルの証書」を持つようなものです。
ただし、この証書が法律上どこまで"本物の株"に近いのか?議決権はあるのか?実際の株と交換できるのか?といった点は、単純ではないと思われます。
誰が発行している?
Stock Tokensを発行しているのは、Robinhood Markets社本体ではなく、「Robinhood Assets (Jersey) Limited(RHJ)」という、英仏海峡に浮かぶジャージー島にある子会社で、Robinhood Markets社が、国際部門を通じて所有する会社、という位置づけです。
また、実際の株式を買い付け、担保として保管するのは、米国の独立した証券会社(ブローカー・ディーラー)、Alpaca Securities LLCが行います。
発行するRobinhood Assets (Jersey) Limited(RHJ)と「株式を預かるAlpaca Securities LLC」が別会社になっていることで、担保となる株式が、発行体であるRobinhood Assets (Jersey) Limitedの資産と混ざらないようにする、という設計になっていて、投資家はその経済的な価値に連動する「オンチェーンの証書(トークン)」を受け取る、という構造です。
このトークンは、法律上は「債務証書(デット・インストゥルメント:Debt Instrument)」(※)として提供されています。
(※)デット・インストゥルメントとは、資金調達のために発行される債務証書や借用証書(債権など)のこと
なぜ「借用証書」のような扱いなのか
このトークンを持つということは、実は「RHJという会社に対する、担保付きの借金の証書(デット・インストゥルメント=債務証書)」を持っているのと同じ意味になります。イメージとしては、こういう感じです。
「あなたの代わりに私(RHJ)が実物の株を預かっておくので、その値動きに応じた金額をあなたにお支払いすることを約束します」
という"借用証書"を渡されている。
株そのものをもらうのではなく、「株の値段分のお金を払う」という約束(=借金の証文)を受け取っている、というわけです。
なぜジャージー島の会社なのか
英仏海峡に浮かぶジャージー島は、米国の証券規制の外にある金融拠点です。
ここに発行体を置くことで、米国の投資家には販売しないという制限を守りながら、世界中の投資家にトークンを提供できる仕組みになっています。
利用者にとっての意味
もしRobinhood Assets (Jersey) Limited(RHJ)が経営難に陥った場合、株主のように会社の保有株そのものを直接請求できるわけではなく、あくまで「借用証書を持つ債権者」としての立場になります。

公開企業と非公開企業で、仕組みが違う
Stock Tokensは、対象となる企業によって、仕組みの複雑さが変わります。
対象 | 仕組み |
|---|---|
公開企業(Apple、エヌビディア、ゲームストップなど) | 実際の株式を1対1で保有した上でトークンを発行。 |
非公開企業(OpenAIなど) | 企業本体の株式ではなく、その株式を保有する特別目的会社(SPV)の持ち分に連動。(※)OpenAIは「この提携は関知していない」と公式に否定した。(参考) |
(※)SPV(Special Purpose Vehicle:特別目的会社)は、ある特定の目的のためだけに作られる、いわば「箱」のような会社のこと。今回のケースで言えば、「OpenAIの未上場株を保有する」という一つの目的のためだけに作られた会社がSPVにあたります。
そもそも未上場企業の株は証券取引所で買えないため、Robinhood Markets社は何らかの経路で未登録株式を実際に取得し、それを「SPV」という「箱」に入れた上で、その持ち分に連動するトークンを発行しています。
つまり株そのものではなく、「株を保有するSPVの価値の一部」を渡している形です。
この方式には、
🔹企業側の承認がない場合の問題点
🔹未上場株には決まった市場価格がない点
🔹Robinhood Markets社側が独自に評価額を算出している点
🔹Robinhood Markets社破綻時にSPVの株式が保有者に優先配分される保証がない点
といった懸念が指摘されています。(参考)
どちらのケースでも共通しているのは、トークン保有者は「議決権を持つ正式な株主」としては登録されないという点です。
経済的な価値の変動には参加できても、株主総会で投票する権利などは伴わないのが、基本構造です。
本当に1対1なのか?
さて、2026年9月、米国の映画館チェーン、AMC (AMC Entertainment Holdings社)のCEO、Adam Aron(アダム・アーロン)氏が、Robinhood Markets社の「すべてのStock Tokensは、1対1で株式に裏付けされている」という説明に疑問を投げかけました。

アーロン氏の指摘はこうです。
「トークンの裏付けとなっている実物の株式が、空売り筋への貸株に使われていたとしたら、それでも本当に1対1と言えるのか」。
さらに、この仕組みを「容認しがたい」と厳しく批判し、企業名や株価を使ってトークンを宣伝しながら、投資家に議決権を与えていない点は利用者に誤解を与えるとも主張しました。(参考)
これに対し、Robinhood Markets社の最高法務責任者(Chief Legal Officer)のDan Gallagher(ダン・ギャラガー)氏は、
証券法は理解した上で運営しているとして、サービス停止の要求は拒否しています。
ただし、空売り筋への貸株が行われているかどうかという核心の質問には、直接的な回答をしていません。(参考)
償還と議決権を追加する計画
こうした批判を受け、Robinhood Markets社のCEO(Chief executive officer:最高経営責任者)のVlad Tenev(ヴラド・テネフ)氏は、2026年9月14日付のCoinDesk記事で「Stock Tokensの現物償還(トークンを実際の株式と交換できる仕組み)と議決権付与を進めている」と発表しました。
同社の暗号資産事業責任者も、「対象となるトークン保有者に対し、1対1での株式償還と議決権の提供に向けて動いている」とコメントしています。(参考)
「トークンはブロックチェーン上のウォレットを自由に転々とするため、保有者が誰なのか分からない状態で、議決権を実効的に機能させられるのか」という技術的な疑問は残ります。
RWAという大きな流れの中で
Stock Tokensは、単独の目新しい商品ではなく、「RWA(Real World Assets:リアルワールドアセット)」と呼ばれる、より大きな潮流の一部です。
RWAとは、株式・債券・不動産など「現実世界にある資産」を、ブロックチェーン上のトークンとして扱えるようにする取り組み全般を指します。
Robinhood ChainのStock Tokensは、このRWAという大きな枠組みの中の「株式」というジャンルにあたる一例です。
つまり今回見てきた「株式なのか、トークンなのか」という論点は、Stock Tokensだけの特殊な話ではなく、今後あらゆる資産がオンチェーン化されていく中で、繰り返し問われることになるテーマだと言えます。

おわりに
現時点でのStock Tokensは、法律上「株式そのもの」ではなく、株価に連動する経済的な権利証書という性格が強いものです。
ただし、これは固定された仕組みではなく、償還や議決権の追加によって「本物の株式」に近づけようとする動きが、まさに今進行中です。「株なのか、トークンなのか」という問いへの答えは、今後さらに変化していく可能性があります。
次回は、24時間動く"株式市場"が、通常の取引所が閉まっている時間帯にどうやって適正な価格を保っているのかを、掘り下げていこうと思います。
お読みいただいてありがとうございました。