証券会社が作った、新しいブロックチェーンRobinhood Chain②くりぷと知っ得情報9月23日号

クリプトスタディ(クリスタ)の水野です。
証券会社、Robinhoodが自社のサービス(株式トークンやDeFi機能)を動かすために作った「基盤・インフラ」Robinhood Chain(ロビンフッドチェーン)について、シリーズで書いています。
🔶Robinhoodは、なぜ自前のブロックチェーンをつくったのか?
くりぷと知っ得情報9月16日号
前号では、Robinhood Chain(ロビンフッドチェーン)を「イーサリアム(ETH)の脇に作られた専用レーン」にたとえ、Offchain Labsが提供する「Arbitrum Orbit」というキットを使って作られていることを紹介しました。
では、実際のところ、イーサリアム(ETH)・アービトラム(ARB)・Robinhood Chainは、それぞれどんな役割分担をしていて、取引はどのような順序で処理されているのでしょうか。
今回は、この3者の関係を一段深く掘り下げていきます。
イーサリアムの役割は最終の「安全の拠り所」
イーサリアム(ETH)は、Robinhood Chain上で行われた取引が「本当に正しかったか」を最終的に保証する土台になります。Robinhood Chain上の取引データは、まとめてイーサリアムに書き込まれ、何か不正があれば異議を申し立てられる仕組みになっています。
つまりRobinhood Chain自体は日々の取引を高速にさばく場所であり、その正しさの最終判断はイーサリアム(ETH)に委ねられている、という役割分担です。
「アービトラム:Arbitrum」はチェーンではなく「技術」
ここで誤解しやすいポイントがあります。
「アービトラム(ARB)というチェーンの中にRobinhood Chainがある」というイメージを持たれがちですが、正確には少し違います。
Arbitrumは、Offchain Labsが開発した「Arbitrum Nitro」という技術(ソフトウェアの設計図のようなもの)です。
この技術を使って作られた代表的なチェーンが「Arbitrum One」という誰でも使える公共のチェーンですが、Robinhood Chainは、そのArbitrum Oneの中に間借りしているわけではありません。
Robinhood Chainは、同じアービトラム(ARB)の技術を使いながら、Robinhood専用に独立して作られた、いわば"兄弟チェーン"です。
どちらのチェーンも、それぞれ直接イーサリアム(ETH)に取引データを書き込んでいます。
土台(レイヤー1)イーサリアム(ETH)最終的な安全性とデータの保管場所技術Arbitrum Nitroアービトラム(ARB)Offchain Labsが開発した、高速・低コストな取引処理の仕組み利用例Robinhood Chain(Robinhood専用チェーン)同じ技術を使った別々のチェーンArbitrum One(公共チェーン)

Robinhood Chain実際の処理の流れRobinhood Chainが採用しているのは「Optimistic Rollups:オプティミスティック・ロールアップ」という方式です。
「オプティミスティック=楽観的」という名前の通り、これは一種の"性善説"の仕組みです。オプティミスティック・ロールアップとはイーサリアム(ETH)上で取引を高速・低コストに処理するための「レイヤー2(L2)」技術の一種です。仕組みは一種の"性善説"で成り立っています。つまり「毎回全部チェックしてから進める」のではなく、「まず信じて進めて、後から間違いを正せる仕組みを用意しておく」という考え方です。この"性善説"のおかげで、イーサリアム(ETH)本体よりずっと速く・安く取引を処理できます。名前の「オプティミスティック=楽観的」も、この設計思想に由来しています。1、Robinhood Chain上の取引は、まず高速・低コストでどんどん処理される
2、その取引データは、まとめて(バッチ化されて)イーサリアム(ETH)に書き込まれる(※)
3、書き込まれた内容は「一旦正しいものとして」扱われる
4、ただし一定期間内であれば、誰か(現状は限られた監視者のみ)が「この処理はおかしい」と異議(不正証明)を申し立てられ、証明されれば取り消される
つまり「毎回すべてを厳密にチェックしてから進める」のではなく、「基本的には信頼して進めつつ、後から間違いを正せる仕組みを用意しておく」という設計です。
これによって、取引のスピードを大きく落とさずに済んでいます。(※)バッチ化(バッチ処理)とは、大量のデータや複数の作業を一定量・一定期間ごとにあつめ、まとめて一括して自動処理するしくみのこと。
取引の順番を決める「Sequencer(シーケンサー)」Robinhood Chain上で送られてくる取引を、実際にどの順番で処理するかを決めているのが「Sequencer:シーケンサー」と呼ばれる仕組みです。
「レイヤー2(L2)」チェーン上に送られてくる大量の取引を受け取り、「どの順番で処理するか」を決めて実行する役割を持つ仕組みで、銀行の窓口で例えるなら、来た人の対応順を管理する「受付係」のような存在で、この受付係がいるおかげで、取引の確認がスピーディーに得られます
現状、このシーケンサーはRobinhood自身が運営しており、中央集権的な形になっています。
ユーザーから見れば、この「Sequencer:シーケンサー」のおかげで素早く取引の確認が得られる一方、取引の順序を決める権限は今のところRobinhoodに集中しているという点は、分散化の観点での課題として指摘されています。(参考)
ガス代がETHである理由
Robinhood Chainは独自のチェーンでありながら、取引手数料(ガス代)の支払いには独自トークンではなく、イーサリアム(ETH)の通貨であるイーサ(ETH)を使います。
これも、Robinhood Chainがイーサリアム(ETH)という基盤の上で動いていることの表れの一つです。
現状の課題
Robinhood Chainは、まだ分散化の初期段階にあります。
取引の順番を決める「Sequencer:シーケンサー」はRobinhoodによる中央集権的な運営で、不正証明を提出できる主体もごく一部の監視者に限られています。
第三者評価機関L2BEATの分類でも、分散化の最も初期段階に位置づけられています。
「ブロックチェーン=分散化されている」と一括りにせず、この段階にあるという実情も押さえておきたいポイントです。
L2BEATの「ステージ」制度とは
L2BEATは、「レイヤー2(L2)」チェーンの分散化の進み具合を客観的に評価している第三者機関です。
「Stage 0」「Stage 1」「Stage 2」という3段階のものさしで、各チェーンの分散化レベルを格付けしています。(参考)
🔹Stage 0:
運営元(この場合はRobinhood Chain)が、取引の順番を決める仕組みや、不正を訴える仕組みに、まだ強い権限を持っている段階
🔹Stage 1:
不正を訴える権利がより多くの第三者に開放され、運営元の権限にも一定の歯止め(勝手にルールを変更できないような制限)がかかった段階
🔹Stage 2:不正の判定がほぼ自動化・オープン化され、運営元の裁量がほとんどなくなった、最も分散化が進んだ段階
執筆時点で、Robinhood Chainは現状、この中でも「Stage0にすら届いていない」段階に位置づけられています。(参考)

「まだ運営元であるRobinhoodが、取引の順番や不正判定に対して強い権限を持っている、育成中の段階」ということです。
銀行の新しいオンラインサービスが始まったばかりで、まだ銀行自身がほぼ独占的に不正チェックを行っている状態、とイメージすると分かりやすいかもしれません。

おわりに
Robinhood Chainは、イーサリアム(ETH)という土台の安全性を借りながら、アービトラム(ARB)という技術で高速・低コストな処理を実現し、その運営の主導権「Sequencer:シーケンサー」は、Robinhood自身が握っているという三層構造で成り立っています。
次回は、Robinhood Chainの目玉機能である「Stock Tokens(株式トークン)」について、それは株式そのものなのか、株価連動トークンなのかを掘り下げていきます。
お読みいただきありがとうございました。