証券会社が作った、新しいブロックチェーンRobinhood Chain④くりぷと知っ得情報10月7日号

クリプトスタディ(クリスタ)の水野です。
証券会社、Robinhood Markets社が自社のサービス(株式トークンやDeFi機能)を動かすために作った「基盤・インフラ」Robinhood Chain(ロビンフッドチェーン)について、シリーズで書いています。

🔶Robinhoodは、なぜ自前のブロックチェーンをつくったのか?
くりぷと知っ得情報9月16日号🔶Robinhood Chainと、イーサリアム(ETH)、アービトラム(ARB)の役割分担
くりぷと知っ得情報9月23日号🔶「Stock Tokens(株式トークン)」について
くりぷと知っ得情報9月30日号

前号では、Robinhood Chain上で発行されている、米国の有名企業の株価に連動する暗号資産「Stock Tokens(株式トークン)」が法律上「株式そのもの」ではなく、株式に対する請求権であることを見てきました。
今回はもう一歩進めて、「価格」の話です。
株式市場が閉まっている夜間や週末でも、Robinhood Chain上のStock Tokensは取引され続けます。
このとき、価格はいったい何を基準に決まっているのでしょうか。

価格の基準となる「オラクル」という仕組み

Robinhood ChainでStock Tokensの「今の値段」を決めるには、例えば、誰かが「エヌビディア(NVDA)について今、実際いくらで取引されているか」という情報をブロックチェーンに教えてあげる必要があります。

ブロックチェーン自体は外の世界の株価を自分では見に行けないので、この「外の情報を届ける役」をしているのがチェーンリンク(LINK)で、これを「オラクル(Oracle)」と呼び、Stock Tokensの参考価格を算出しています。(参考)

計算式はシンプルで、「実際の株価 × 倍率」です。
この倍率は、最初は「1.00倍」からスタートし、配当が出るたびにほんの少しずつ増えていきます。
たとえば倍率が「1.02倍」になったとすると、株価そのものが100ドルのままでも、トークンの価格は「100ドル×1.02=102ドル」として計算されます。
次の配当でまた倍率が上がれば、トークンの価格もさらに株価より高く表示されるようになっていく、という仕組みです。
イメージとしては、投資信託の「分配金を出さず、自動的に再投資するタイプ」に近いものです。
分配金を毎回現金で受け取るのではなく、受け取るはずだった分をそのまま運用に組み込んで基準価額を少しずつ押し上げていく‥‥その仕組みと同じ発想で、配当分の価値をトークンの価格に自動的に反映させています。

実は、「24時間・週5日」

ここで押さえておきたいのが、この参考価格の更新自体は24時間365日ではない、という点です。
チェーンリンク(LINK)の株式向け価格フィードは「24時間・週5日」、つまり米国株式市場が開いている時間帯(プレマーケット・通常取引・アフターマーケットを含む)に合わせて動いています。
株式市場が閉まる夜間や週末、祝日には、参考価格は最後に更新された値のまま止まります。(参考)

通常時に価格のズレを正す「裁定取引」

株式市場が開いている間は、この参考価格とRobinhood Chain上の実際の取引価格が多少ズレても、大きな問題にはなりません。
簡単な例で考えてみましょう。
実際のエヌビディア(NVDA)株が100ドルなのに、Robinhood Chain上のStock Tokensが105ドルまで値上がりしてしまったとします。
このとき、トークンの発行を認められた事業者(認定参加者)が「本物の株のほうが5ドル安い。安い株を買ってトークンに交換し、高いトークンとして売れば、差額の5ドルが儲かる」と考えて実行すると、2つのことが同時に起こります。
本物の株が買われて株価がわずかに上がり、新しく作られたトークンが市場に増えてトークンの価格が下がるのです。この「高い方を売り、安い方を買う」動きが繰り返されるうちに、価格差は自然と縮まっていきます。
これが裁定取引(アービトラージ)です。
なお、トークンを新しく発行したり償還したりできるのは、事前の審査を受けた認定参加者に限られます(発行時点では1社のみ)。個人にできるのは、すでに市場にあるトークンの売買までです。
逆にトークンのほうが安くなった場合は、反対のことが起こります。
安いトークンを買い集めて本物の株に交換(償還)し、相場で売る(これも認定参加者の役割です)。

すると今度はトークンが市場から減って価格が上がり、株が売られて株価がわずかに下がる‥‥。
結果としてやはり価格差が縮まります。
ポイントは、ただ「安く買って高く売る」だけでなく、トークンを「新しく発行する」「本物の株と交換して償還する」という調整弁があることで、認定参加者が利益を狙って動くたびに、自然と価格が引き戻される仕組みになっている点です。

市場が閉じている間に何が起きるのか?

問題が起きやすいのは、株式市場が閉じている時間帯です。
Robinhood ChainではStock Tokensの取引自体は24時間止まりません。
しかし参考価格は動かず、裁定取引の裏付けとなる新しいトークンの発行もできません。
つまり「取引はできるが、価格を正す仕組みは休んでいる」という状態が生まれます。
この間に大きな買い注文が入ると、限られた流動性の中で価格が実際の株価から大きく乖離してしまうことがあります。

実際に起きた例/AMCトークンの急騰(2026年9月)

2026年9月初旬の米国レイバーデー(労働者の日)の連休中、映画館チェーンAMC (AMC Entertainment Holdings社)のStock Tokensの価格が一時18ドル台まで急騰し、直前の終値2.54ドルの約9倍近くに達する出来事がありました。(参考)
米国株式市場が休場で新規トークンの発行ができない中、限られた流動性の中でオンチェーンの買い需要だけが価格を押し上げた結果です。
市場再開後のプレマーケットではAMC 株自体も一時22%ほど上昇しましたが、トークンの発行枚数が数日で約19倍(約15万枚→約290万枚)に増えて供給が追いついたことで、価格差はやがて縮小していきました。
AMC (AMC Entertainment Holdings社)のCEO、Adam Aron(アダム・アーロン)氏が、Robinhood Markets社の「すべてのStock Tokensは、1対1で株式に裏付けされている」という説明に疑問を投げかけました、きっかけとなった事件です。

なぜこのズレはいずれ収束するのか?

このAMC トークンの例が示すのは、価格の乖離は一時的な現象にとどまりやすい、という点です。
市場が再開すれば新しいトークンを発行できるようになり、供給が増えることで希少性が薄れ、上乗せされていた価格(プレミアム)は縮んでいきます。
裏を返せば、この「収束」の仕組みはあくまで株式市場が再開することを前提にしている、ということでもあります。

業界全体でも「解決できていない課題」

2026年9月のCoinDeskの分析記事でも、この「市場が閉じている間の価格のズレ」は一社だけでは解決できない構造的な課題として指摘されています。
解決の方向性として、株式そのものとして正式に登録された「発行体型トークン」と、既存の株式を担保にした従来型のトークンを共通の決済基盤でつなぎ、真の意味での24時間価格発見を目指す構想も議論されている段階だと、分析しています。

Hyperliquid(ハイパーリキッド)でも同様

Hyperliquidは「HIP-3(Builder-Deployed Perpetuals)」という仕組みを通じて、テスラ(TSLA)やアップル(AAPL)、エヌビディア(NVDA)など実際の株式に連動する無期限先物(パーペチュアル)市場を他社に作らせており、こうした株式連動の派生商品には、Robinhood Chainと構造的に同じ問題が潜んでいる可能性があります。

おわりにRobinhood Chain上のStock Tokensは確かに24時間取引できますが、その価格が実際の株価を正確に映しているのは、株式市場が開いていて裁定取引が機能している間に限られます。
市場が閉じている間は、取引自体は止まらなくても価格を正す仕組みは休んでおり、実際の株価から大きくズレる可能性がある‥‥この構造を理解しておくことが、24時間市場と付き合う上での前提になります。
次回は、Robinhood Chain上の取引の中心的な存在である分散型取引所「Uniswap(ユニスワップ)」を取り上げます。
お読みいただいてありがとうございました。